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消化管悪性腫瘍の化学療法

胃癌に対する化学療法

胃癌の治療は、内視鏡治療・手術(外科治療)・化学療法の3つが中心です。胃癌と診断されたら、まず各種の検査により癌の進行度(ステージ)が決定されます。このステージと全身状態、年齢、合併症などを考慮し治療方法が決定されます。
胃癌に対する化学療法には、手術と組み合わせる「補助化学療法」と切除不能進行胃癌・再発胃癌に対する「緩和的化学療法」があります。「補助化学療法」は手術後の再発予防のために行うのに対し、「緩和的化学療法」は胃がんを完全に治すことが難しい場合でもがん自体の進行を抑え、延命および症状を軽減することを目標として行われます。 
切除不能進行胃癌・再発胃癌に対する「緩和的化学療法」で用いる抗癌剤は何種類もあり、一次化学療法、二次化学療法、三次化学療法と使用する抗癌剤がガイドラインで定められています。まず一次化学療法を行い、一次化学療法が効かなくなった場合や副作用などの理由で一次化学療法を中止した場合に二次化学療法、三次化学療法を行います。
また化学療法は副作用が問題になるため、少なくとも歩行可能で自分の身の回りのことを行える、かつ肝臓や腎臓の機能が一定の基準を満たしている方が対象となります。 
化学療法による副作用としては、使用する抗癌剤によっても異なりますが、脱毛や口腔・消化管などの粘膜障害、白血球減少や血小板減少(骨髄抑制・血液毒性)、全身の倦怠感・吐き気・嘔吐(消化器症状)、手足のむくみ・しびれ、肝臓や腎臓への障害などが挙げられます。抗癌剤は癌細胞だけでなく正常な細胞にも影響を与えるために、このような副作用が起こり得ます。 下記に一次化学治療(最初に用いる抗癌剤)についてまとめています。

1:HER2陰性の場合

基本的にはフッ化ピリミジン系薬剤(5-FU、S-1、カペシタビンなど)とプラチナ系薬剤(シスプラチン、オキサリプラチン)を組み合わせた2剤併用療法が推奨されます。
組み合わせの一例としてS-1+シスプラチン療法があります。 これはS-1という飲み薬を21日間連続で内服しその後14日間休む、また8日目にシスプラチンの点滴を行うというサイクルで治療します。本療法の副作用としては、S-1では骨髄抑制(白血球や血小板の減少)、消化器症状(食欲不振・下痢・口内炎など)、皮膚症状(発疹など)、シスプラチンでは腎機能障害や神経障害(手足のしびれなど)に注意する必要があります。
S-1+シスプラチンの組み合わせ以外にも、S-1+オキサリプラチン(SOX療法)、カペシタビン+シスプラチン(XP療法)などがあり、患者さまに合わせて治療の組み合わせを選択します。

2:HER2陽性の場合

胃癌患者の約20%ではHER2と呼ばれるタンパク質が癌細胞の増殖に関わっています。
HER2検査が陽性の場合は、フッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系薬剤に加え、子標的薬であるトラスツズマブという薬剤を組み合わせることが一般的です。トラスツズマブはHER2陽性の患者に対しては腫瘍細胞の増殖を抑える効果が期待できます。
具体的な組み合わせとしては、カペシタビン+シスプラチン+トラスツズマブ、S-1+シスプラチン+トラスツズマブなどが挙げられます。
カペシタビン+シスプラチン+トラスツズマブ療法は,1日目にシスプラチンとトラスツズマブを点滴すると同時に、カペシタビン(内服薬)を14日間連続で内服し、その後7日間休薬するサイクルで治療します。 
カペシタビンの副作用として、皮膚症状(手足に発赤やひび割れなど)が特徴的です。保湿剤を用いて手足の乾燥を防ぐこと、手足を清潔に保つことが重要となります。トラスツズマブの場合は心不全症状(呼吸困難や咳嗽、浮腫、不整脈)や点滴直後の悪寒、発熱、疼痛、頭痛、咳などに注意する必要があります。

HER2(Human Epidermal Grouth Factor Receptor2、人上皮成長因子受容体2)

癌遺伝子の一つで胃癌初のバイオマーカーとして個別化療法の進展に期待されています。
 トラスツズマブ(ハーセプチン)はHER2タンパクを標的として癌細胞の増殖を阻害する分子標的薬です。

大腸癌に対する化学療法

大腸癌に有効な抗がん剤と治療方法が次々と開発されてきており、通常は2種類以上の薬剤を組み合わせて治療を行います。治療法には「術後再発抑制を目的とした補助化学療法」と、「切除不能な進行再発大腸癌を対象とした全身化学療法」があります。本項目では後者の説明を行います。
「切除不能な進行再発大腸癌に対する化学療法」は、大腸がんを完全に治すことが難しい場合でも癌自体の進行を抑え、延命および症状を軽減することを目標として行われます。化学療法が著しく効いたことにより手術可能と判断して切除手術が行われる場合があります。
  また強力な治療が適応となる患者と強力な治療が適応とならない患者に分けて、治療方針を選択することが一般的です。
なお化学療法を行う際には副作用が問題となります。用いる薬剤の種類によって副作用は異なり、その程度も個人差がありますが、「胃がんに対する化学療法」で説明した副作用の症状に注意して治療を行います。
「切除不能な進行再発大腸癌に対する化学療法」では、オキサリプラチン・イリノテカン・5-FU・ロイコボリンという抗癌剤を組み合わせた、FOLFOX療法とFOLFIRI療法が主に行われています。また、経口薬剤であるカベシタビン(ゼローダ)を用いたXELOX療法も行われています。ゼローダは全身への毒性を最小限に抑え、高容量の5-FUを腫瘍に選択的に供給するように作られた薬剤です。特徴的副作用としての手足症候群に加え、消化器毒性や血液毒性もありますので注意が必要です。
新しい世代の薬剤として3種類の分子標的抗癌剤であるベバシズマブ(アバスチン)セツキシマブ(アービタックス)、パニツムマブ(ベクティビックス)が進行・再発大腸癌の治療に用いられるようになっています。これらの薬剤は癌の発生や増殖に関係する特定の遺伝子やたんぱく質の分子を標的に作用してがん細胞の増殖を抑制します。
強力な治療が適応となる患者(重篤な併存疾患がなく副作用にも耐えることができそうな患者)に対しては、これらの分子標的抗癌剤と上記のFOLFOX療法・FOLFIRI療法を組み合わせた治療を行います。この場合、がん細胞の中にある「KRAS遺伝子」に変異がない「野生型」(正常な型)に対して上乗せの治療効果が期待できますので、「KRAS遺伝子検査」を行う必要があります。変異のあるタイプでは効果が発揮できません。一方で,強力な治療が適応とならない患者(重篤な併存疾患がある、あるいは抗癌剤による副作用を好まない場合)に対しては、副作用の出やすいオキサリプラチンやイリノテカンを使用しないという方法もあります。