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ヘリコバクター・ピロリ菌と胃の病気

1:ヘリコバクター・ピロリ菌とは何者?

ヘリコバクター・ピロリ菌(以下 H.ピロリ菌)はヒトの胃粘膜に寄生して胃の粘膜に炎症を起こす「らせん状の桿菌」で、ウレアーゼ酵素活性(胃酸を中和する)や鞭毛(素早い運動ができる)を有しています。通常、胃の中は強い酸性を保ち菌は棲めませんが、ピロリ菌は特殊な酵素(ウレアーゼ)によってアンモニアを産生して胃酸を中和することで、強い酸性の胃の中でも生息が可能です。
通常は胃粘膜を覆っている中性の粘液の中に生息しており、粘膜上皮に強く接着して病原性を発揮します。幼少時に口から感染して胃粘膜に慢性的な炎症を起こしていきます。H.ピロリ菌の証明には胃の粘膜を採取して行う検査(迅速ウレアーゼ検査など)と血液などの検体から行う検査(血清抗体検査、尿中・便中抗原検査、尿素呼気試験)があります。

2:H.ピロリ菌と胃癌、胃疾患との関係

1983年にH.ピロリ菌が胃の中に生息していることが証明されて以来、このH.ピロリ菌が多くの胃の病気の原因となっていることが明らかとなってきました。ピロリ菌が胃粘膜に炎症を起こし慢性胃炎が進行する過程で、胃潰瘍や十二指腸潰瘍になりやすいことが確認されてきました。また、 慢性萎縮性胃炎と胃がんの発生に密接な関係があることがわかっています。
慢性的な炎症が続く中で胃粘膜細胞の遺伝子に異常が起きてがんが発生すると考えられています。

3:H.ピロリ菌の除菌治療とその効果

現在、保険診療で認められているH.ピロリ除菌治療法は3剤療法(胃酸分泌抑制剤1剤と抗生剤2剤)で、1週間服用します。1回目で治療できなければ二次除菌治療(抗生剤の変更)を行ないます。除菌成功率は80~90%とされています。H.ピロリ菌を除菌することによって慢性活動性胃炎が終息し、胃・十二指腸潰瘍の再発がなくなることが証明されています。これまでに胃・十二指腸潰瘍、胃マルトリンパ腫などが保険適応となっていました。

4:胃がん診療の現状

近年では内視鏡検査の発達により比較的早期に発見される胃がんの割合が増えて内視鏡治療や外科的治療で治ることが多くなってきています。しかし過去35年間、胃がん死亡者数は約5万人と横ばいであまり変化していません。胃がん死亡の8割は65歳以上の高齢者で占められており、進行胃癌として発見されるために救命できていない現実が見えてきます。

5:H.ピロリ菌を除菌すると胃がんにならない?

H.ピロリ菌感染のない健常な胃粘膜からは胃がんの発生がほとんどないことはわかっていました。いくつかの臨床研究によってH.ピロリ菌を除菌した人でも除菌していない人と比較して有意に胃がんになりにくいことが証明されました。ただし100%発生しないわけではないので、H.ピロリ菌除菌後も定期的な内視鏡検査を受けて頂くことが大切です。
平成25年2月には「内視鏡で診断された慢性胃炎」に対するH.ピロリ感染症の診断と除菌治療が保険適用となりました。

6:胃がんの予防と早期発見のために

ABC検診(胃がんリスク分類)とは?

従来の胃癌検診はバリウムと空気で描出する胃透視で行われていましたが、最近ではH.ピロリ菌の有無と慢性萎縮性胃炎に注目したABC検診が行われるようになり、明石市では平成25年度からABC検診を開始しました。

ABC検診(胃がんリスク検診)とは、血液検査でピロリ菌に対する抗体と、胃の炎症や萎縮の度合いを反映するペプシノーゲン(消化酵素の一つ)を測定し、その組み合わせから胃がん発生のリスクを分類し評価する検診です。

ABC検診は下記のように分類されます。

A群は正常。B<C<D とリスクが高くなります。
A群 H.ピロリ菌の感染・胃粘膜萎縮がないと判断。胃癌発症の可能性は極めて低い。
B群 H.ピロリ菌に感染しているが、萎縮性変化は軽度と判断。胃癌発症のリスクあり。
C群 H.ピロリ菌感染と萎縮性胃炎が進行していると判断。胃癌発症のリスクが高い。
D群 H.ピロリ菌は少ないか消失し、萎縮性員は高度と判断。胃癌発症のリスク極めて高い。
検診の結果により、内視鏡検査の実施を推奨します。
胃がんリスク検診の結果判定に従って医師と相談し、胃内視鏡検査を受けましょう。
ピロリ菌の感染は4~5歳以下の免疫力の弱い時期に起こります。A群の成人は現在および将来において胃がんになる危険はほとんどなく、無症状であれば、胃の二次内視鏡検査を受ける必要がないと考えられます。B、C、D群(現感染~既感染群)では慢性胃炎の進行程度の判断と早期に胃癌を発見することを目指して内視鏡精密検査を受けることになります。胃癌が発見された場合はそちらの治療が優先ですが、慢性胃炎だけでしたら、ピロリ除菌治療を受けてください。ピロリ除菌治療により胃癌発生リスクは下がりますが、元から感染していない人よりは胃癌リスクは高いままです。
ABC検診で大切なことは、ピロリ除菌後も、医師と相談し、内視鏡検査受診を将来も継続していくことです。胃癌が発見されるのは、ABC検診を実施した年だけでなく、5年後、10年後、20年後かも知れないからです。
明石市の胃癌リスク検診では、A判定の方は、以後5年間はABC検診を受けなくてよいとなっています。ただし、A判定でも精密検査を受けなくてはいけない場合があるので注意して下さい。それは、ピロリ抗体価が境界値に近いために偽陰性と思われる方、ペプシノーゲン値が境界値で偽陰性を疑われた方、さらに除菌歴のある方です。これらの場合は、偽A群として内視鏡検査受診を推奨しています。

7:今後の胃がん検診と胃癌診療の在り方

胃がんは遺伝子の病気であり、H.ピロリ菌の感染によって引き起こされる感染症でもあります。感染症は予防することができます。したがって、胃がん対策は「胃がんになってから見つける」(二次予防)時代から、「胃がんの危険を予知して予防する」(一次予防)時代に入ったと言えるでしょう。胃がんリスク健診とH.ピロリ菌除菌治療の組み合わせにより胃がん予防、内視鏡検査での早期発見による胃がん死亡者の減少効果が期待されます。